山下会長 今月のつぶやき  BUCK NUMBER

つぶやきW(2002/10/20)

  「つぶやき」なんて何か斜に構えた言葉でありますが、SAH会において、少しでも私の考えていることを知っていただきたいと思って書き続けることにしています。 T、U、Vでは、阪神大震災後の住宅政策の流れを追って、いま地元の建築業はどうあるかについて考えてみました。
今回は、私の研究姿勢、社会に働きかける考え方などについて書きたいと思います。
研究は、音響、温熱環境の領域を信州大学に赴任以来続けておりまして、今一番研究成果が出てきている時期と思っております。やはり研究を継続することの大切さを痛感しております。温熱環境では、一貫して計測して、シミュレーションなどにより理論との整合、さらに省エネルギーの観点で進めてきました。研究論文では、建築学会の原著論文に20編(音、熱を含めて)を越すまでになりました。その成果をSAH会では、Q値の計算、エネルギー消費の計算ソフトの公開、温熱理論のわかりやすい図表集などを集めてSAH会CD−Romを発刊しました。もっともこれが、まだ未成熟な点があり、あまり会員に有効に使われていないのが残念であります。こちらの工夫の足りなさと思い、現在再構築を検討中であります。それとデータベースの構築も行いましたが、同様な結果でありまして、検討中であります。
なぜうまくいかなかったかと考えますとニーズに対して時期的に早すぎた点と、パソコン利用環境が未成熟な点でありました。これは、もう少しで解消されるでしょう。会員のほとんどがホームページをもち、メールを使えるようになってきているからです。


SAHの目標は、工学的な客観的なdataに基づいて信州に快適な住まいを提供する技術を研究し、普及啓発することです。
発足当時は、たまたま別の研究会が設立されて競合することからか官の協力があまり受け入れられないまま、独自に進めてきました。
当初、高気密工断熱住宅を目標にしたモデル棟、それと従来の工法の住宅であって、断熱気密化に少しでも近づける試験棟(?)をいくつか設定しました。そして会として購入してもらった測定器を用いて主として冬季のdataを取得して、いい成果を出しました。これまでの住宅を見直すような快適な室内環境を実現させた訳で、これにより当時の正会員(地元も工務店、建築会社)が自信をつけてそれぞれの路線に沿って今日に至っていることは周知のことであります。
結果として、発足時から会としての工法を決めないで自由に目標に向かおうとしたことが今日まで長続きしているのでしょうか。ですが、景気が低迷している性もあって、いつの間にか進取の気持ちが薄れてきて会としての活性が少しなくなりつつあります。このような時が来るのは、ある意味で起こりうることで、私は今こそ、強力な助っ人であります北村女史の理解と協力のもとで「つぶやき」を発信しようと決意しております。


私がこれまでもずっと主張し続けてきたことであります。それは、継続であり、客観的なデータをいかに持ち続けて、絶えず見直していく姿勢であります。 この数年間、CDrom、HPを発信してきました。ほかに私に依頼がありましたところの温熱計測、省エネルギーに関する計測、シミュレーション計算を続けてきております。依頼を受けるにあたって、三つの方針に基づいてであります。
第1に研究にプラスとなり、役に立つことをしよう。第2に学生には、それぞれ責任を持ってもらい、学生が失敗したからうまくいきませんでしたなどと決して言わない研究室体制の確立です。第3は、研究費は測定器、設備などの購入はできるだけひかえ、かつ必要なら依頼先で調達してもらい、わたしのところでは最新のパソコン、ソフトを購入できる程度の金額、場合によっては、それすらなくてもやろうという姿勢です。従って、学生にはアルバイト大は支給しないで実費支給です。

さて、いま私が関心を持っていることは四つあります。
第1は長野県の森林を含めた循環社会を目指して、まずは薪あるいはペレットボイラーによる床暖房システムの開発であります。これがうまくいけば、薪ストーブが主体の飯綱地区でのDIYによる普及から始めて、ある程度の成果が出てきたら長野県に働きかけて、移動用のペレット製作機械などの開発、ペレット補給体制の確立などを通して長野県から全国発信することを夢見ております。森林の間伐、建築廃木材の利用は灯油を補うエネルギー源であり、うまく活用すると環境にやさしい、循環型社会に変わる可能性を秘めております。もっともこの考え方は、スエーデン、ドイツ、オーストリアなどでは実用化されております。
第2は、完全なエネルギーゼロ住宅の実現であります。これまた上記のスエーデンのイエテボリ市で実現しています。長野に比べてはるかに緯度が高く、寒いところで実現できて長野はもとより日本でなぜ実現できないのでしょうか。
第3は民家を含めた古い住宅で、かつしっかりした木材で作られた住宅を快適な省エネルギー住宅に改築する技術の開発です。新築より少し安いか、あるいは新築以上の費用がかかっても保存したいユーザーの考えを実現に向かわせる技術です。
第4は、首都圏で関心が集まりつつあるオフィスビルなどのほかの用途に変えて、付加価値をつける技術です。かつ、都市の景観を維持しつつ壊すことではない再生させる技術であります。構造、計画、環境分野、文化面などから知恵を出し合って実現させるリノヴェーション技術の開発です。このテーマは、長野県では少し早すぎるでしょうが首都圏では深刻な問題になりつつあります。現在、研究チームを立ち上げて、定期的な会合を積み重ねる方向で検討を開始しております。

以上、思いつくまま書きましたが固定したものではありません。皆さん、少し元気を出して新たなテーマに取り組みましょう。ぜひ皆さんの考えも聞きたいと思っております。



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